mercredi 3 juin 2015

歴史とは、そしてその細分化にどう抗するか

3 juin 2008
(1892, Taganrog, Russie – 1964, Paris)


今日は科学史家アレクサンドル・コイレの"Perspectives sur l'histoire des sciences" (1961年、「科学の歴史についてのパースペクティブ」)を読んでみた。彼はロシアに生まれ、ドイツ経由でフランスに落ち着いたが第二次大戦を鋏んで米国に移住し、後年フランスに戻りパリで没した。ドイツでフッサールの講義を聞いていたようだ。

このエッセイでは、アメリカのコーネル大学で科学史を教えていたゲルラック(Henry Edward Guerlac; 1910-1985)の論文をもとに考察を加えている。ゲルラックは科学史研究の歴史を振り返った後にデルフォイの問いに行き着く。すなわち、歴史とは一体何なのか?という問である。人類の歴史と言った場合、一つにはこれまでに起こったことの総体、過去の出来事や事実の集合で客観的な歴史とでも言うべきもの。それから歴史家が語る過去の物語がある。

しかし、過去に辿り着くのは大変なことだ。すぐにどこかに消えていき、最早そこにはなくなり、触ることのできないものである。唯一接触できるのは、これまでの時間と人間の破壊から逃れた作品であったり、記念碑、記録などだろう。それにしたところで過去のほんの一部でしかない。さらに重要なことは、それらの記録が残るに至った経過で、当時の人の当時の基準による取捨選択が行われている可能性である。その場合、歴史家が自らの時代の制約を受けた歴史を語っており、本来不変のはずの過去が常に改変され、変質して今日に至っていることになる。

19世紀から20世紀にかけての人類の歴史の発展は感動的でさえある。古代文字の解読、体系的な発掘などがわれわれに多くの過去をもたらしてくれた。しかし、すべてのことには裏がある(toute médaille a son revers)。歴史が発展、充実してくると、専門化、断片化、分裂、細分化が起こってくる。人類の歴史と言う代わりに、あれやこれやの部分的歴史になってしまう。この過度の専門主義と分離主義が歴史研究に悪弊をもたらしているとゲラックは問題提起している。そこには他の領域に対する尊大な態度と、科学が生まれた生の状態を説明しようとしない理想主義的な傾向が現れてくる。

コイレはこの指摘に完全に同意する。すべて(tout)は部分の総計 (la somme des parties)より素晴らしい。地方史の集合は国の歴史にはならない。さらに各国の歴史の集合はより普遍的な歴史の断片にしか過ぎない。地中海沿岸諸国の歴史が地中海史には成り得ないことでもわかる。数学や天文学、物理学や化学の歴史を合わせたからと言って科学の歴史にはならない。しかし、一体どうすればよいと言うのだろうか。部分を解析し、それを統合することなしに全体を理解することは不可能なのである。専門化という現象は発展の代償なのだろう。今や一人が科学や人類、芸術や宗教の歴史を書くことなど不可能になっている。これこそ現代の最大の問題である。しかし、この問題に対する処方箋はコイレも持ち合わせていないと認めている。


 Henry Edward Guerlac (1910-1985)


この問題は歴史に限らずほとんどすべての専門領域に当てはまることだろう。科学を例に取っても、このままどこまでも突き進むと予想される。深い思慮もなくどこまでも発展を求める心理がある限り、益々加速して進みそうである。科学の中での論理は、それ以外にないからだ。しかし、科学も人間の行為であり、したがって社会の中での行為になる。社会が科学に何を求めているのかによって科学は大きく変わり得ることを歴史が教えている。この傾向に抗するには、それにも増して大きな哲学が求められるだろう。その上、空に描かれたその絵をどれだけの人が真剣に見、それを自らの生きることに繋げることができるのか。そこがこの問題のカギになるだろう。

  "Apprendre, c'est faire" (学ぶとは行うこと)


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3 juin 2015

 上のコイレ論文で、歴史においても科学と同様の問題が取り上げられているのに驚き、納得した

今テーズを書く過程で、部分と全体、統合の問題が目の前に現れている

科学の成果は、基本的に小さな断片に関するものである

膨大な量の断片が、そこら一面に散らばっている

それらを掻き集めて纏めることにより、新しい姿が見えてこないだろうか

それが今書いている時の問題意識になっている

さらに、この作業は繰り返さなければならないことにも気付いている





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