dimanche 28 juin 2015

ニーチェによる土地と風土 Le lieu et le climat selon Nietzsche

28 juin 2008

今朝、机の上に何気なく置かれていた文庫本を取ったところ、その中に引き込まれ当初の予定はどこかにいってしまった。夕方までニーチェとともに過ごす。彼の最後の書から。

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  栄養の問題と密接に関係しているのは、土地と風土の問題である。誰にしろ、何処に住んでも構わないというものではあるまい。ことに全力を振りしぼることが必要である大きな使命を果たさなければならない者は、この点できわめて狭い選択しか許されていない。風土が新陳代謝に及ぼす影響、新陳代謝を阻害したり促進したりする影響は非常に大きいために、いったん土地と風土の選択を誤ると、自分の使命から遠ざけられてしまうばかりでなく、使命そのものをわが身に授けてもらえないということが起こり兼ねないのである。つまり、彼自らが使命に面と向かうことを一度もしないで終ってしまうわけだ。こういう人の場合、動物的活力が十分に漲り溢れ出していないので、最も霊的な界域に洪水のように押し寄せて行くあの自由、かくかくのことをなし得るのはただ吾れ独りのみ、と認識するあの自由な境地には、到達しがたい。

・・・・・どんなに小さな内臓の弛みでも、それが悪い習慣になってしまえば、一人の天才を凡庸な人物に、何か「ドイツ的な存在」に変えてしまうには十分である。ドイツの風土にかかったら、強健な内臓、英雄的素質を具えた内臓でさえも、無気力にしてしま うのはいとも簡単だ。新陳代謝のテンポが速いか遅いかは、精神の足がす速く動くか、それとも思うように動かないかに正確に比例している。「精神」そのものがじつはこの新陳代謝の一種にすぎないのだからこれまた当然である。

ひとつ比べ合わせてみて頂きたい。才気に富んだ人々が住んでいたかまたは現に住んでいる土地、機智と洗練と悪意が一体となって幸福の要素を成していたような土地、天才がほとんど必然的に住みついていたような土地、等々を。 どれもみな空気が素晴らしく乾燥した土地ばかりだ。パリ、プロヴァンス、フィレンツェ、イェルサレム、アテーナイ----これらの地名は何かあることを証明している。すなわち、天才の成立は乾燥した空気や澄み切った空を条件としていること----迅速な新陳代謝を、いいかえれば法外とさえいえる大量の力を繰り返しわが身に取り込みうる可能性を条件としていること、それらのことを証明している。

私はある自由な素質を持つ秀でた精神が、たまたま風土的なものに対する本能的鋭敏さを欠いていたというそれだけの理由で、狭量になり、卑屈になり、ただの専門家になり下がり、気むずかし屋で終ってしまったケースを、目の当たりに見て知っている。そして、私自身にしてからが、病気になったお陰で、否応なく理性へと、現実の中での理性に関する熟慮へと強 いられたのだが、もしもこの、病気によって強制されるということが起こらなかったならば、結局は右と同じケースになっていたのかもしれない。

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ニーチェ 「この人を見よ Ecce Homo」 (西尾幹二訳)
  (段落改変はpaul ailleursによる)

仏版 (Eric Blondel 訳)

 

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6 juillet 2015

 気候が精神に与える影響については、こちらに来てから常に考えていることだ

今の時期で言えば、湿気と暑さである

東京の梅雨から夏にかけての湿気と暑さには苦しめられた

あの蒸し暑さの中では考えることが嫌になるのである

理性的に考えるなどということが面倒くさく、どうでもよくなるのである

ニーチェによれば、天才が育つ条件は乾燥した空気や澄み切った空だという

確かに、パリにはその条件は揃っている


地震や台風、竜巻に津波などの天災が日常的に襲ってくる日本

わたしが数週間帰国すると、このどれかに必ず遭遇してきた

大変なところに住んでいたという自覚が生まれたのは、大地の揺れないこちらに来てからである

そのような環境では、永遠とか絶対というようなことに思いも至らないのではないか

大地がびくともしないこちらでそんなことも考えるようになった


ニーチェ流に言えば、天才をも何か「日本的な存在」に変えてしまう環境が日本にあることになる

 蒸し暑い今日のパリ

確かに精神の集中を削ぐ効果がある

住む場所を意識的に選ぶということが、その人の人生を決めることさえある

重い問題だが、意外に意識されていないことかもしれない





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